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ケルベロスの国(注1)には悪い妖怪や怪物が暗躍しており、誰一人として信用出来るものはいない。

(注1) ケルベロスはギリシャ神話に出てくる黄泉の国の入口を守る番犬の名前である。首が三つあると言われている。
誰かに荷物を送ったなら、中身は暴かれると思わなければならない。妖怪はいつあなたに化けて、あなたの名を語って悪さをするかしれない。

だからこの国では、あなたも信用されていないということになる。

あなたは、妖怪に拐われた父親を救い出すために、ケルベロスの国に入って神の力を借りなくてはならなくなった。しかしそのためには、まずあなたが本当にあなたであり、拐われた父親の息子に間違いないことを神に対して証明しなければならないのだ。

言い伝えによると、ケルベロス様の力を借りて、『認証の儀式』を行なうことで神々はあなたをあなたであると認めて下さるであろうとある。まず始めに、あなたはあなた自身しか知らない秘密の呪文を教えられていると思いなさい。

『認証の儀式』の手順は次のようなものである。

1. ケルベロス様から取り次ぎの翁への紹介状と鍵を頂く

ケルベロス様にあなたの名前を告げなさい。ケルベロス様は、鍵のかかったありがたい箱を下さるであろう。

その箱を開けるための鍵は、実はあなたのために既に用意されている。ケルベロスの国の入口であなたしか知らない秘密の呪文を頭に思い浮かべなさい。そうすれば鍵が得られるであろう。決して声に出してはならない。また、いったん箱を開けたら鍵は壊してしまいなさい。決して人に取られないようにしなさい。

箱の中には次の二つのものが入っている。

謎の紹介状は『取り次ぎの翁』と呼ばれる翁への紹介状である。取り次ぎの翁は人知れぬ山奥に住んでおり、様々な神のことを知っていて、あなたを目的の神に紹介してくれるであろう。

ところで、謎の鍵は、それが鍵であることすらわからないでたらめな形をしている。謎の紹介状も、それが紹介状であることすらわからない記号の羅列である。また、あなたが以前ケルベロスの国にやってきたことがあるなら、その時にもらったものと比べても異なっていることに気づくであろう。これらすべては、妖怪に盗まれた時に悪用されないようにするためのものである。

この二つのアイテムは大切に持っておくこと。これさえあれば、いつでも『取り次ぎの翁』に様々な神への取り次ぎをしてもらうことが出来るのである。ただし、紹介状の有効期間は8時間(注2)である。8時間経ったら、再びケルベロス様にお願いして、紹介状と鍵を頂きなさい。

注2 ケルベロス様はこの時間を変えることが出来る。


最初の疑問
誰も信用出来ないこのケルベロスの国では、私に箱をくれたのが本当にケルベロス様であると言えるのだろうか。
真実の声
箱を下さったのはまさしくケルベロス様である。ケルベロス様でなくて、どうしてあなたしか持っていない鍵をかけることが出来ようか。ケルベロス様は決して鍵を盗まれるようなへまなことはなさらない。盗まれるとしたら、それはあなたのところからである。
二つめの疑問
間違いなくケルベロス様であると分かるのならば、直接秘密の呪文を伝えて、鍵のかかっていない箱を受け取ってもいいのではないか。
真実の声
秘密の呪文は、たとえ相手がケルベロス様であっても伝えてはならない。先程も言ったように、あなたしか持っていない鍵をかけることができたから、ケルベロス様であると分かるのである。あなたには、それ以外の方法でケルベロス様を認識することはできない。もしあなたが、直接対話を試みようとするならば、必ずや偶像崇拝に陥るであろう。そしてその偶像の背後には、妖怪が潜んでいよう。この国では妖怪がもっともらしくケルベロス様に変装してあなたをだますことは日常茶飯事であり、その回りにもずるがしこい妖怪どもが聞き耳をたてているのである。秘密の呪文は、あなたとケルベロス様の心のなかにだけあるもので、決して声に出してはならない。
さらなる疑問
なぜアイテムの有効期限は8時間に制限されているのだろうか。
真実の声
実はこのアイテムを入手して、いくつかの小細工を弄すれば、他人があなたになりすますことが出来るのである。そうなった時にも被害を最小限に食い止めるために、有効期限を設けているのだ。悪者は盗み出すより他に、新たにこのアイテムを手に入れる方法は持たないから、悪事をはたらけるのは有効期限の間だけということになる。
謎の紹介状はどうやって読むのか
ケルベロス様の下さった紹介状は私には読めないが、取り次ぎの翁はどうやってこれを読むのだろうか?それとも実は内容のないカムフラージュに過ぎないのだろうか。
真実の声
あなたが自分の鍵でケルベロス様の箱を開けたように、取り次ぎの翁も自分の鍵を使って紹介状を読むことが出来るのである。ケルベロス様はあなたの鍵のみならず、取り次ぎの翁の鍵もお持ちなのだ。ケルベロス様は内容のないカムフラージュなど決してなさらない。
ケルベロス様の不審な態度
ケルベロス様はなぜ神を直接紹介してくださらず、取り次ぎの翁を通して紹介してくださるのだろうか?
真実の声
ケルベロス様の下さる箱をあけるためにはあなたの鍵を使う必要があることを思いだしなさい。あなたの鍵を何度も使うのは危険である。その度に盗まれる可能性があるからだ。かわりにケルベロス様は、別の鍵を下さって、取り次ぎの翁との荷物のやりとりが安全に出来るようにして下さっているのだ。その鍵は、たとえ取られたとしても、8時間の有効期間をすぎれば何の役にもたたなくなるから比較的安全なのである。一見そっけないようでいて、ケルベロス様はそこまであなたのことを考えて下さっているのだ。
ケルベロス様は大丈夫?
このような乱れた土地では、ケルベロス様が妖怪の餌食になることも十分考えられるのではないか。
真実の声
ケルベロス様は絶対安全な場所にいらっしゃる。だから妖怪の餌食になるようなことはない。信じなさい。あなたの信仰が試される時である。

2. 取り次ぎの翁に神への紹介状を書いてもらう

取り次ぎの翁は、ケルベロス様の紹介状をもった人にだけ、神への紹介状を書いてくれる。取り次ぎの翁への手紙を書いて箱に入れ、ケルベロス様の下さったなぞの鍵(1)をかけておきなさい。

手紙の内容は次のようなものである。

その箱を含めて次のものを袋に入れて、取り次ぎの翁に渡しなさい。袋の中身は人に見られても構わない。なぜなら、神の名前以外は誰もそれを開けることも解読することも出来ないからである。ケルベロスの国では、神の御名のみならず、あらゆる名前を隠すことはしない。

しかし次のことには気をつけなさい。もしあなたが手紙に偽りを記するなら、罰せられるであろう。取り次ぎの翁は正しいものには神を取り次いでくれるが、あなたが不正をはたらくなら容赦なくそれを暴くであろう。

あなたが正しければ、取り次ぎの翁は、ケルベロス様が下さったのと同じような箱を返してくる。その箱はあなたの鍵ではなく、こんどはケルベロス様が下さった謎の鍵(1)であけることが出来るはずである。

その箱には次のものが入っている。

こんどの紹介状は力を借りたい神への紹介状である。


取り次ぎの翁の謎
私は、取り次ぎの翁に手紙を送る際、手紙を箱に入れてケルベロス様の謎の鍵(1)をかけておいた。翁から送り返されて来た箱にも同じようにケルベロス様の謎の鍵(1)がかけられていた。私は謎の鍵(1)を取り次ぎの翁には送っていないのに、翁は一体どうやってその箱を開け、再び鍵をかける事ができたのだろうか?
真実の声
実は、ケルベロス様は、あなたに謎の鍵(1)を渡すとともに、その時あなたに託した取り次ぎの翁への謎の紹介状の中にも同じ鍵をしのばせておいたのである。取り次ぎの翁は紹介状からその鍵を取りだして使っていたのだ。つまり、ケルベロス様はあなたと取り次ぎの翁の両方に同じ鍵を渡して、もののやり取りが出来るようにしてくださっていたのである。
不正の見抜きかた
取り次ぎの翁はどうやって私の不正を見抜くのだろうか?
真実の声
あなたがケルベロス様に言ったことは、すべてケルベロス様の下さった謎の紹介状に書き込まれていると思いなさい。取り次ぎの翁は、あなたが手紙に書いたことと、あなたがケルベロス様に言ったことが矛盾していないかチェックしているのである。
日時のなぞ
取り次ぎの翁への手紙に今の日時を書き込むのは何のためだろう?取り次ぎの翁にも今の日時くらいわかりそうなものだが。
真実の声
手紙を入れた箱を再利用出来なくするためである。妖怪がこの箱を手に入れて、後であなたになりすまして使ったとしても、それが使われるのは、あなたが手紙を書いた時刻をいくぶんなりとも経過しているであろう。取り次ぎの翁は用心深いので、内容が古い手紙は受けとらないことにしているのだ。

3. 神の認証を受ける

力を借りたい神への手紙を書いて箱に入れ、取り次ぎの翁のくれたなぞの鍵(2)をかけておきなさい。

手紙の内容は取り次ぎの翁に宛てたものと同じである。

その箱を含めて次のものを袋に入れて、力を借りたい神に渡しなさい。

袋の中身は人に見られても構わない。なぜなら、神の名前以外は誰もそれを開けることも解読することも出来ないからである。

あなたが偽りをなさなければ、神はあなたが本当にあなたであるということを認めて下さるであろう。これが『認証』といわれるものである。

しかしながら、あなたの願いが聞き入れられるかどうかは、また別の問題である。あなただからこそ聞き入れてもらえないということもあり得るのである。認証の儀式を終えても神があなたの前に姿を現さなかったならば、その時は、嵐が吹きすさび妖怪が暗躍するこの荒野に、たった一人で旅立たなくてはならないであろう。

ともあれ、認証の長い道のりはこれで終りを告げた。
(ケルベロスの伝説 -- 終り)[1994]

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