年金という名の身分制度(差別)


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今日の日本には、日本国憲法が禁じる身分制度が厳然として存在します。どのような制度なのか、そして憲法のどの条文に違反しているのかなどをまとめてみました。読み流す場合は、身分格差の実態 だけでも見ていただければ幸いです。


目次

1. 三つの身分
 ・ 第一の差別
 ・ 第二の差別
 ・ 第三の差別
2. 身分格差の実態
3. 日本国憲法に違反する理由
4. どのような制度にするべきか

1 三つの身分

今日の日本には、日本国憲法が禁じる身分制度が存在します。それは三つの身分からなっていて、20歳以上のすべての国民はこのうちのどれかに属しています。三つの身分は次の通りです。

第一号身分(不遇身分)
公務員でも正社員でもなく、その配偶者でもない国民がこれに属します。現役時代は国民年金のみの被保険者です。この身分は重い保険料負担を強いられながら、生活できるだけの年金が支給されません。
第二号身分(優遇身分)
公務員と正社員がこれに属します。現役時代は厚生年金の被保険者です。この身分は少ない保険料負担で、有利な年金が支給されます。
第三号身分(最優遇身分)
第二号身分の配偶者がこれに属します。この身分はまったく保険料を負担することなく、有利な年金が支給されます。

この三つの身分の間には明らかな差別が存在します。この節ではそのうち最も重要なものを三つ取り上げ、それがどのような法律によっているかを説明します。

用語の説明

本論で言う「身分」は、国民年金法でいうところの「被保険者」に対応します。対応表を次に示します。

国民年金法に基づく呼び名 本論での呼び名
第一号被保険者 第一号身分
第二号被保険者 第二号身分
第三号被保険者 第三号身分

「被保険者」でなく「身分」という言葉を使う理由は次の通りです。

留意事項

本論では分かりやすさを優先し、フリーランス、自営業、正社員、公務員などの立場が生涯変わらないケースのみを扱います。実際は一人の人生の中で複数身分に属する場合があることにご留意ください。 また第三号身分は男性の場合もありますが、本論では第三号身分は常に女性であり、妻であると想定します。これもわずかな例外を無視してわかりやすさを優先しました。ご了承ください。

1.1 第一の差別

第一号身分は、国民年金保険料を毎月納付する義務があり、納付しなければ基礎年金を受給できない。一方第二号身分と第三号身分は、国民年金保険料を納付する義務はなく、納付しなくても満額の基礎年金を受給できる。
国民年金はすべての国民が加入します。第一号身分、第二号身分、第三号身分のすべてが国民年金の被保険者であることは次の条文で定められています。 「第一号被保険者」が第一号身分、 「第二号被保険者」が第二号身分、 「第三号被保険者」が第三号身分に相当します。
国民年金法第七条第一項
第七条 次の各号のいずれかに該当する者は、国民年金の被保険者とする。

一 日本国内に住所を有する二十歳以上六十歳未満の者であつて次号及び第三号のいずれにも該当しないもの(厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)に基づく老齢を支給事由とする年金たる保険給付その他の老齢又は退職を支給事由とする給付であつて政令で定めるもの(以下「厚生年金保険法に基づく老齢給付等」という。)を受けることができる者を除く。以下「第一号被保険者」という。)

二 厚生年金保険の被保険者(以下「第二号被保険者」という。)

三 第二号被保険者の配偶者であつて主として第二号被保険者の収入により生計を維持するもの(第二号被保険者である者を除く。以下「被扶養配偶者」という。)のうち二十歳以上六十歳未満のもの(以下「第三号被保険者」という。)

そして第一号身分には保険料納付の義務がありますが、第二号身分と第三号身分には保険料納付の義務がありません。それを規定した条文は以下の通りです。まず、第一号身分が国民年金保険料を払わなくてはならないことを規定した条文。

国民年金法第八十七条第一項及び第二項
第八十七条 政府は、国民年金事業に要する費用に充てるため、保険料を徴収する。
2 保険料は、被保険者期間の計算の基礎となる各月につき、徴収するものとする。
国民年金法第八十八条第一項
第八十八条 被保険者は、保険料を納付しなければならない。
上の条文には「被保険者」とのみ書いてあって、どこにも第一号身分と分かる記載はありません。しかし次の条文によって第二号身分と第三号身分が例外とされるので、上の条文は第一号身分のみを対象にしたものと分かります。
国民年金法第九十四条の六
第九十四条の六 第八十七条第一項及び第二項並びに第八十八条第一項の規定にかかわらず、第二号被保険者としての被保険者期間及び第三号被保険者としての被保険者期間については、政府は、保険料を徴収せず、被保険者は、保険料を納付することを要しない。

以上をまとめると、第一号身分は国民年金保険料を納付する義務があり、第二号身分と第三号身分には納付の義務はありません。

一銭も納付せずに満額受け取れるからくり

さて常識的に考えれば、保険料を納付しなければ年金は受給できないはずですが、第二号身分と第三号身分は納付しなくても満額受給できる仕組みになっています。その仕掛けを説明します。

まず基礎年金は、国民年金の「保険料納付済期間」に基づいて支払われます。ところがこの「保険料納付済期間」という言葉は、身分によって意味が変わる特殊な法律用語です。次の条文でこの用語が定義されています。

国民年金法第五条第一項
第五条 この法律において、「保険料納付済期間」とは、 第七条第一項第一号に規定する被保険者としての被保険者期間のうち 納付された保険料(第九十六条の規定により徴収された保険料を含み、第九十条の二第一項から第三項までの規定によりその一部の額につき納付することを要しないものとされた保険料につきその残余の額が 納付又は徴収されたものを除く。以下同じ。)に係るもの及び第八十八条の二の規定により 納付することを要しないものとされた保険料に係るもの、 第七条第一項第二号に規定する被保険者としての被保険者期間並びに 同項第三号に規定する被保険者としての被保険者期間を合算した期間をいう。

この条文はとても分かりにくく、読んで意味が分かる人は少ないと思うので、意訳してみました。例外規定を除き、身分が生涯変わらないことを前提にすると、本筋ではこんなことを言っています(法律の条文と混同されないように意図的に文体を変えました)。

【意訳版】国民年金法第五条第一項
【意訳版】第五条 この法律の「保険料納付済期間」は次のように定義します。
・第一号身分の場合、被保険者期間のうち、保険料を納付した期間のみ
・第二号身分と第三号身分の場合、被保険者期間のすべて(保険料納付の有無は問いません)

第一号身分の「保険料納付済期間」は「被保険者としての被保険者期間のうち納付された保険料(中略)に係るもの」に限定されているので、保険料の未納期間は入りません。これは常識的な話です。

一方、第二号身分と第三号身分の場合は「〜のうち 納付された保険料に係るもの」という限定がないので「保険料納付の有無は問いません」という意味になります。納付してないのに「保険料納付済期間」とは納得しがたい話ですが、そう「定義」したということです。

以上をまとめると、第二号身分と第三号身分は、国民年金保険料を生涯一銭も負担せずに、満額の基礎年金を受給できることになります。

時々次のようなことを言う人がいますが、間違いです。

「厚生年金の保険料の中には国民年金保険料が含まれています。だから厚生年金を受け取れる方は、国民年金(基礎年金)を併せて受け取れるのです」
厚生年金保険料に国民年金保険料は含まれていません。国民年金保険料を納付しなくても受け取れるシステムになっています。

1.2 第二の差別

第二号身分は厚生年金保険料の半額を負担するだけでよい。

厚生年金は第二号身分と第三号身分のための年金です。保険料を払うのは第二号身分ですが、その負担が半分であることは次の条文で定められています。

厚生年金法第八十二条
第八十二条 被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料の半額を負担する。
2 事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う。

雇用者の負担分は実際には税金または商品価格に上乗せされて広く国民が負担しますから、第二号身分と第三号身分の年金(厚生年金)の半分は、すべての身分の国民に支えられています。その中には当然第一号身分も入っていますから、第一号身分は、第二号身分と第三号身分の厚生年金保険料を間接的に負担しています。

身分制度の根幹

上の短い条文(厚生年金法第八十二条)は身分制度の根幹をなすと言ってもいいほどの重大な働きをします。

厚生年金保険料の折半は、企業にとって負担が重いので、その義務を負わずにすむ非正規社員(第一号身分)が増えています。総務省統計局の「労働力調査(令和元年版)」によると、非正規雇用者の数は2165万人となり、今や全雇用者の38%を占めます。そして非正規社員が正社員(第二号身分)になることは困難なのが実情です。日本では雇った正社員を簡単にはクビにできないので、企業は新規の正社員を雇用することに慎重になり、いきおい非正規社員が雇用の「調整弁」として使われるからです。そういう訳で今の日本において、総じて第一号身分は貧しく不安定であり、第二号身分は豊かで安定していると言えます。その格差を生み出しているのが上の条文です。

さらにこの条文は老後の生活水準をも決定します。国庫の負担分を除くと、豊かな第二号身分と第三号身分の年金はすべての身分が支え、一方貧しい第一号身分の年金は第一号身分だけが支えますから、受け取る年金額にも、後で述べる通り大きな格差ができます。

つまりこの条文は現役時代の身分格差を生み出し、さらに引退後にもその格差を存続させ、生涯にわたって変わらない身分を確立する働きがあるということです。「身分制度の根幹」と申し上げたのはそういう意味です。

1.3 第三の差別

第三号身分は厚生年金保険料を一切負担する必要がない。

第三号身分については保険料を支払う義務がどこにも書かれていないので、払わなくていいことは明白です。保険料を一切支払うことなく、年金を受け取れます。

第三号身分は通常は第二号身分の配偶者として生活しているので、本人の年金ではないように見えますが、紛れもなく本人の年金です。例えば、離婚した場合は年金の分割を請求できますし、配偶者が亡くなった時は、老齢厚生年金の四分の三を遺族厚生年金として生涯受け取れます。

厚生年金保険法には、配偶者が保険料を「共同して負担」したと見なす次の条文があります。

厚生年金保険法第七十八条の十三
第七十八条の十三 被扶養配偶者に対する年金たる保険給付に関しては、第三章に定めるもののほか、被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料について、当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識の下に、この章の定めるところによる。
国民年金法にはこのような条文はありません。第三号身分の妻だけが何も負担せずに「共同して負担」したとみなされる特権を持っています。

2 身分格差の実態

さてここまで、身分制度の内容とその根拠となる法律の条文を見てきました。次に、実際にどれくらいの格差があるのかを見てみます。論より証拠です。

年金の比較方法

身分格差を正確に調べるには、年金保険料ではなく、年金保険料の自己負担分に着目する必要があります(以下、自己負担保険料と呼びます)。第二号身分の支払う厚生年金保険料の自己負担保険料が、第一号身分の支払う国民年金の自己負担保険料(固定額 16,540円、令和2年4月~令和3年3月分)と等しくなるようなケースを探すと、標準月額報酬18万円の場合の16,470円がもっとも近いです(「平成29年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表」による)。 このケースについて、他の条件をそろえれば正確な比較ができます。

他の条件は次のようにしました。

結果は以下の通りです。

生涯年金は、老齢基礎年金、老齢厚生年金、遺族厚生年金を合わせたものです。「倍率」は(生涯年金/生涯自己負担保険料)の値で、生涯に実際に払った額の何倍の年金を生涯に受け取れるかを表します。倍率が大きいほど有利です。

独身の場合

身分 自己負担保険料
(月額)
生涯自己負担保険料
(40年分)
年金
(年額)
生涯年金
(25年分)
倍率
   第一号身分(独身)    16,540円 7,939,200円 781,700円 19,542,500円 2.5
   第二号身分(独身)    16,470円 7,905,600円 1,255,258円 31,381,450円 4

自己負担保険料がほぼ同じにも関わらず、生涯年金には11,838,950円もの格差があります。

格差以上に問題なのは、第一号身分の年金の絶対額の少なさです。月額に換算すると65,142円で、生活を成り立たせるのは困難です。しかもこれは満額の場合で、平成29年度の平均支給額は月額55,615円でした(厚生労働省「平成29年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」による)。これではますます生活は成り立ちません。これがいわゆる「下流老人」の実態です。ちなみに同じ年、第二号身分の平均支給額は月額147,051円でした。

さて生活が成り立たないと生活保護を申請するしかありませんが、生活保護には保険料は不要ですから、結局それまでの保険料はすべて無駄払いになります。ありていに言ってしまうと、第一号身分は生活保護財政に拠出する役割を担わされた唯一の身分です。それを思うと国民年金保険料の3割から4割が未納というのもうなずけます。

夫婦の場合

身分 自己負担保険料
(月額)
生涯自己負担保険料
(40年分)
年金
(年額)
生涯年金
(25年分)
倍率
第一号身分+第一号身分(夫婦) 33,080円 15,878,400円 1,563,400円 39,085,000円 2.5
第二号身分+第三号身分(夫婦) 16,470円 7,905,600円 2,036,958円 50,923,950円 6.4

第二号身分+第三号身分の夫婦の支払額は、第一号身分の夫婦の半分なのに、受け取る額は逆に11,838,950円も多いことが分かります。世間が第三号身分を「勝ち組」と呼ぶのもうなずける結果となりました。

参考までに第二号身分+第三号身分夫婦が、上の第一号身分の夫婦と同じ保険料を負担したら、いくら支給されるかを試算しました。標準報酬月額36万円の場合がほぼそれに相当します。

身分 自己負担保険料
(月額)
生涯自己負担保険料
(40年分)
年金
(年額)
生涯年金
(25年分)
倍率
第二号身分+第三号身分(夫婦) 32,940円 15,811,200円 2,510,517円 62,762,925円 4

ほぼ同じ額を納付した第一号身分夫婦より、生涯年金額が23,677,925円も多くなりました。

未亡人の場合

さて夫婦の年金を考えるときは、未亡人のケースも考える必要があります。上の夫婦の場合で、不幸にも夫が年金支給の直前に亡くなった場合、残された妻に支払われる年金は次の通りです。

身分 自己負担保険料
(月額)
生涯自己負担保険料
(40年分)
年金
(年額)
生涯年金
(25年分)
倍率
   第一号身分未亡人     33,080円 15,878,400円 781,700円 19,542,500円 1.2
   第三号身分未亡人     16,470円 7,905,600円 1,136,869円 28,421,725円 3.6

やはり相当の格差があります。第一号身分は基礎年金だけですが、第三号身分は、自分の基礎年金(国民年金)に加えて遺族厚生年金が支給されます。第一号身分にも「遺族」と名のつく年金(遺族基礎年金)はありますが、こちらは本来「子育て年金」と呼ぶべきもので、18歳未満の子供がいなければ支給されませんから、老後の備えにはなりません。ちなみに第三号身分はこの年金も受け取れます。

第一号身分未亡人は、夫の年金がまるごと消えるので、最初から独身だったのと同じになります。第三号身分の妻が夫の保険料納付に協力したというなら、第一号身分の妻だって同じことなのに、夫婦で協力して納付した夫の保険料が無駄になった結果、第一号身分未亡人の倍率は1.2という非情な値です。もちろん生活は成り立ちません。仕方なく生活保護を受けると、こんどは自分(妻)の保険料も無駄払いになります。このように第一号身分の保険料は、その多くが無駄払いになる仕掛けになっています。格差は数字だけでは語れません。

ちなみに厚生年金は以前はもっと有利でした。上の表は平成15年4月以降に被保険者となった人の比較表ですが、それ以前に被保険者であった期間は約1.3倍に評価されます。つまり上の表は格差を最低限に見積もったものです。

その他の優遇

この他にも第二号身分と第三号身分には数々の特典があります。

第二号身分の年金制度には、養育特例(時短に基づく少ない保険料を納付すれば、3年間は満額納めたことになる)、加給年金(一定の年齢の妻子が入れば手当がでる)など、第一号身分にはない特典があります。

健康保険にも特典があります。第一号身分の健康保険は、家族が増えると保険料も増えますが、第二号身分の健康保険は世帯主が一人分の保険料を払えば、家族が何人いても全員利用できます。さらに保険料は年金保険料と同じく雇用主との折半です。また一ヶ月に払った医療費が限度額を超えた場合、超過分が払い戻される制度まであります。医療費の負担率はいまでこそ共通の3割ですが、平成8年までは第二号身分と第三号身分は1割負担でした。第一号身分の1/3 で済んでいたわけです。

第三号身分の特典としては、条件が合えば中高齢寡婦加算(年間585,100円)があります。また遺族厚生年金は所得と見なさないので税金(所得税)がかかりません。第一号身分には実質的に遺族年金すらないのに、第三号身分には本当に細やかな配慮があります。

ここまでの格差を「身分制度」と呼ばずに何と呼べばいいでしょうか。

3 日本国憲法に違反する理由

本論で述べた身分制度は、憲法の三つの条文に違反します。それを検証してみます。

日本国憲法第十四条

日本国憲法第十四条
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない
華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、 又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
「法の下に平等」とは、普通に読めば「法は誰に対しても平等に適用される」という意味ですが、今の日本では「平等でない法律を禁止する」という意味です。最高裁判所が次のように解釈したからです。
「法の下に平等」の最高裁判所の解釈
事柄の性質に即応した. 合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨であると解すべき
実際過去において、この解釈に基づいていくつもの法律の条文が無効になっています(尊属殺人重罰規定、衆議院議員定数配分規定、婚外子の国籍取得要件、婚外子の法定相続分規定など)。

本論で取り上げた身分制度が「法的な差別的取扱い」であることは明らかなので、「事柄の性質に即応した. 合理的な根拠」を示さない限り憲法違反です。

日本国憲法第二十二条

日本国憲法第二十二条
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する
何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
優遇身分である第二号身分になるには、公務員または正社員になる必要があります。それを選択しなかった場合に不遇身分になるような法律は「職業選択の自由」を侵しています。最近の「フリーター」「非正規」と呼ばれる人たちは、必ずしも望んでなった人たちばかりではないでしょうが、それでも食べていくために仕事につく必要がありますから、やはり職業選択の自由です。なお、第一号身分の犠牲の上に、第二号身分と第三号身分が裕福な生活を送ることを「公共の福祉」とは言いません。

さらに第三号身分も有利な身分の代償として自由な労働を制約されています。第三号身分は起業にもっとも適した身分で、優秀な人材もたくさんいるはずなのですが、身分制度のために才能を活かせません。国家にとって大きな損失です。

日本国憲法第二十四条

日本国憲法第二十四条
第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
最優遇身分である第三号身分になるには、第二号身分との婚姻が必要です。婚姻は「両性の合意のみに基いて成立」すると規定されていますから、優遇身分になるために婚姻を必須とする法律も、相手を第二号身分に限定する法律も憲法に違反します。

さて第一号身分の女性にとって、第一号身分の男性との結婚は不遇身分の確定を意味し、第二号身分の男性との結婚は最優遇身分に成り上がることを意味します。そのため第一号身分の男性は結婚自体が困難な状況に追い込まれています。次の記事は大卒男性について調べたものです。

2012年度の就業構造基本調査を基に大卒男性の未婚率を雇用形態別にまとめると、20~24歳の時点では雇用形態にかかわらず95%超が未婚だ。だがこれが35~39歳になると、正社員をはじめとする正規雇用者は25.3%に減少しているのに、派遣・契約社員は67.2%、パート・アルバイトは85.8%が未婚のままとなっている。
「結婚できないの俺だ日本どうすんだ!!!」(週間東洋経済 2016/5/9)より引用
憲法に違反するこの制度は、女性の選択の自由を奪い、男性の未来の希望を潰しています。 それは深刻な少子化の原因ともなっており、国家存続の危機をもたらしていると言っても過言ではありません。

4 どのような制度にするべきか

最後に、どのような制度にすればいいかについて私見を述べておきます。

年金制度私案

年金制度は一本化し、次のようなシンプルなものにすればいいと思います。

過去の年金制度は違憲なので、年金額は即時改定する必要がありますが、上のやり方なら過去の年金が共済年金であれ厚生年金であれ、すべて統一したやり方で扱えます。

またこれに合わせて、国民年金より金銭的にはずっと有利な生活保護制度も見直す必要があります。それを次に述べます。

生活保護制度私案

現在の生活保護は、憲法第二十七条の定める「勤労の義務」を果たしていないので、「健康で文化的な最低限度の生活」を営んでいるとはとうてい言えません。そこで生活を保護すると同時に、勤労の義務を果たせる制度にします。

こうすることで費用を抑えながら「健康で文化的な」生活保護を実現できます。お年寄りにも無理のない仕事はあるはずですし、子供たちは勉強が仕事です。またコミュニティ内起業はIT産業に向いています。Google のような事業でもスタートアップは生活保護コミュニティで可能です。

またコミュニティはどこに作ってもいいので、医療、教育、警察などのサポートさえ確保できるなら、過疎地の廃校などを再利用すればコストも安く済むし、限界集落の再生にも貢献すると思います。

終わりに

江戸時代の日本にも身分制度はありましたが、貧富の格差はそれぞれの身分ごとにありました。今日の身分制度は、身分間に貧富の格差があるという点で江戸時代よりも残酷です。いわゆる「下流老人」や「ロストジェネレーション」も、その本質はこの身分制度です。一部の身分の犠牲の上に成り立つ裕福な生活はあきらめ、分かち合う社会を実現すべきではないでしょうか。

なお本論のデータや事実の記述に誤りがある時はツイッターやブログ等でご指摘ください。修正いたします。

[2020/5/10]
(2021年1月2日追記)
自民党が、以前廃止された国会議員互助年金と地方議員年金の復活に向けた検討に入ったようです。国民年金では生活できないことをわかっているからこその検討でしょうが、それなら国民年金で生活できるようにするのが政治家の役目ではないでしょうか?それをできるはずの政治家が、自分たちの保身しか考えていないのは残念です。
(2023年3月6日追記)
政府は少子化対策としてさかんに「子育て支援」ということを言いますが、それは結婚した第二号身分(優遇身分)と第三号身分(最優遇身分)を助けるに過ぎず、そもそも結婚が困難な第一号身分(不遇身分)は助けませんから、効果は薄く、身分差別をさらに強化する結果に終わると思います。少子化を止めたければ身分差別を廃するしかないと思います。
(2023年5月19日追記)
労働組合の中央組織「連合」は、第3号被保険者制度を廃止すべきとの考え方を打ち出す方向で検討を開始したようです。
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